アピールプレイとは

はじめに

ここではアピールプレイ及びアピールアウトに焦点を当てて説明していきたいと思います。

それなりに細かい説明にはなりますが、プレイ関連の説明に努め、審判の挙動については詳しくないので深入りしません。

4つのアピールプレイ

規定上の4つ

まず、アピールプレイについては、野球規約において5.09cアピールプレイという項が存在します。

具体的には下記になっています。

5.09cアピールプレイ
次の場合、アピールがあれば、走者はアウトとなる。
(1) 飛球が捕らえられた後、走者が再度の触塁(リタッチ)を果たす前に、身体あるいはその塁に触球された場合。
(2) ボールインプレイのとき、走者が進塁または逆走に際して各塁に触れ損ねたとき、その塁を踏み直す前に、身体あるいは触れ損ねた塁に触球された場合。(5.06b1参照)
(3) 走者が一塁をオーバーランまたはオーバースライドした後、ただちに帰塁しないとき、一塁に帰塁する前に身体または塁に触球された場合。(5.09b11参照)
(4) 走者が本塁に触れず、しかも本塁に触れ直そうとしないとき、本塁に触球された場合。(5.09b12参照)
(途中に挿入されている注釈は省略)

以上の4つですが、簡単に言うと、
(1)フライアウトで塁に戻らない(タッチアップが早い時も含む)
(2)進塁時や帰塁時の塁の踏み忘れ
(3)1塁のオーバーラン後すぐに1塁に行かない
(4)本塁の踏み忘れ
となります。

これら4つに該当するプレーを見ていた場合は、守備側が該当走者にタッチするか、該当塁にタッチしてアピールすることで、その走者をアウトにできます。

ライナーがナイスキャッチされたときに、飛び出したランナーはリタッチしに元いた塁に慌てて戻るわけですが、この時に、走者にタッチしなくても塁にタッチでアウトになるのは(1)にしっかり、「身体あるいはその塁に触球された場合」と明記されているからです。

本塁空過の場合の特例

基本的にアピールするときは、走者にタッチするか該当の塁にタッチしてアピールします。

なお、本塁踏み忘れの場合は、走者はベンチに帰っていていないので、走者をタッチしてアピールする方法は規定されていません。

また、(4)の本塁の踏み忘れの規定は要注意で、走者が本塁に触れないだけでなく、「しかも本塁に触れ直そうとしないとき」という条件が付加されています。

すなわち、走者が本塁にタッチできなかったとしても、その走者がタッチしようとしている限りにおいて、「しかも本塁に触れ直そうとしないとき」という条件を満たさず、この規定が当てはまる事態ではないので、本塁を踏んで踏み忘れをアピールする方法はとれず、その走者にタッチしてアウトにするしかありません(もちろん、満塁でフォースアウトの状態であれば話は別で、本塁にタッチするだけで3塁走者はアウトです)。

塁の空過の特例

また、(2)の塁の踏み忘れに関しても、下記のような細かい注意規定があります。

5.09c(2)【規則説明】

塁を空過した走者は、
(A) 後位の走者が得点してしまえば、その空過した塁を踏み直すことは許されない。
(B) ボールデッドのもとでは、空過した塁の次の塁に達すれば、その空過した塁を踏み直すことは許されない。

塁の踏み忘れの場合、原則として戻って踏みなおすことが出来ます。次の塁に達していようが、それどころか本塁を踏んでいても、戻って踏みなおすことが可能です(タッチされれば終わりですし、走者の追い越しを防ぐために後位の走者も戻らなくてはいけないので現実的ではないですが)。

しかし、さすがに何時までも戻って踏みなおしできるというのも甘すぎるので一定の制限が課されているわけです。

(A)の後位の走者がホームを踏んだらもう戻れないというのは、走者の追い越し禁止からも当然と言えます。

その一方で(B)における、ボールデッドの場合には、次の塁を踏んでしまうと、もう後戻りできないというのは、ちょっとわかりづらくて、野球規約上、具体例を挙げて説明しています。

5.09c【原注】に載っている例をそのまま載せてもいいのですが、ちょっと長いので紹介にとどめます。

具体例として説明されているのは、2つです。
1.ホームランもしくはエンタイトルツーベースで、打者が1塁を踏み忘れてしまったときに、2塁を踏んでしまうと、もう1塁の踏みなおしはできない。
2.内野ゴロを打ったが、守備側が1塁に悪送球してそのままボールがスタンドに入ってしまい、走者には2塁まで行く権利が与えられた。この状況でも、走者が1塁を踏み忘れた場合、2塁まで到達してしまうと戻って踏みなおすことが出来なくなります。

帰塁時の取り扱い

これは、(2)の塁の踏み忘れに関するもので、帰塁時だからと言って特別のルールがあるわけではないのですが、プロ野球などでは一番多いアピールアウトかもしれないので、説明します。

帰塁時というのは、打者の打ったライナー性の強い当たりが、ヒットになると思って1塁走者が飛び出して2塁を回ったが、外野手にキャッチされたのをみて慌てて1塁に戻るようなケースです。

このような場合、進塁時と同じく(というか逆に)、必ず3塁、2塁、1塁と踏んで戻らなくてはいけません。

一瞬でも、2塁を超えたら(踏んだら)、戻るときも必ず踏んで戻る必要があります。

アピールの方法と時機

アピール方法

アピールの方法については、【5.09c原注】の3段落目に記載されています。

【5.09c原注】
(前略)アピールは言葉で表現されるか、審判員にアピールとわかる動作によって、その意図が明らかにされなければならない。プレーヤーがボールを手にして塁に何げなく立っても、アピールをしたことにはならない。アピールが行なわれているときは、ボールデッドではない。

アピール方法に関する規定というのはこれだけで、必ずしも口頭でのアピールが必要なわけではなく、また、大げさな動作が必要なわけでもないようです(ここは規定というより運用の問題)。グラブを審判の方に見せたり、塁を踏んでから審判を見て目で合図したりといった、まさに「アピール」動作でいいようです。

通常アピールプレイの場合は、反則に気づいた野手が、「塁を踏んでないからアピールしろ」と言ったり、口頭でのコミュニケーションが内野手内で大っぴらに行われ、審判はそれに気づくので、言葉のアピールが存在されているといっても過言ではない状況です(突然内野手の1人が無言でいきなり塁を踏むような状況は考えにくい)。

また、ハッキリ伝えることが重要なので、できる限り口頭でのアピールする方が確実と言えます。

下記はメジャーリーグのアピールアウト集

なお、フライアウト時のリタッチ義務違反に関しては、飛び出した選手が全力で塁にリタッチしようと突っ込んできますし、後続のプレイが発生する可能性があることもあって、塁上の野手がボールを捕球すれば(つまり塁にタッチすれば)それだけでアピールとみなされているような気がします(だからこそフォースアウトと勘違いされやすい)。

また、非常にレアというか非現実的ですが、複数の走者が同じ塁を踏み忘れたような場合には、誰が踏んでないことをアピールするのかを口頭で審判に伝える必要があります(5.09c原注の注4参照)。

アピールの時機

アピールはいつでもできるわけではなく、ボーインプレー中にする必要があります。したがって、ボールデッドの間はアピールできず、プレー再開をまってからアピールする必要があります。

この、ボールデッド中はアピールできないという規則については、明言した規則はない気がします(5.06c2がボールデッド中は各プレーヤーがアウトにならないことを規定しているのでこれが根拠なのかな?)。

アピールしようとしても、慌ててタイムをかけてしまうと、「あの走者はホームベースを踏んでいません」と審判に伝えても、「今はタイム中です」という答えが返ってくるだけです。もっとも、メジャーリーグやプロ野球を見ていると、審判は、プレー再開してからアピールしてねと教えているように見えます。

下の動画では、ピッチャーがアピールの仕方について審判に確認しています(たぶん)。

面白いのは下の動画。アピールしようとして2塁に送球するものの、送球直前にタイムかけちゃっているので、2塁塁審が無反応。その後、もう一度プレイ再開してからアピールしなおしています。はっきりと映っていないからわかりませんが、ピッチャーと球審の間で、プレー中にアピールしてねというコミュニケーションがある感じがします。

しかし、ボールデッド中はできないという規則だけだと不都合があるため、アマチュア野球内規下記のような補足があります。

アマチュア野球内規(2018年)⑦アピールの場所と時期
(前略)アピールは、ボールインプレイのときに行わなければならないので、ボールデッドのときにアピールがあった場合は、当該審判員は「タイム中だ」ということとする。(規則 5.09 c)
ただし、最終回の裏ボールデッド中に決勝点が記録された場合、または降雨等で試合が中断され、そのまま試合が再開されない場合、ボールデッド中でもアピールはできるものとする。

アピール権の消滅

アピール権の消滅の原則

アピールも、いつまでもできるというわけではなく、一定の条件を満たすと守備側のアピール権は消滅します。

これに関しても、いくつかの規定があります。

5.09c
本項規定のアピールは、投手が打者へ次の1球を投じるまで、または、たとえ投球しなくてもその前にプレイをしたりプレイを企てるまでに行なわなければならない。

これが、アピール権消滅の原則で、投球、プレイ、プレイの企てが行われると、アピール権は消滅し、アピールはできなくなります。

ここで、投球はさておき、プレイないしはプレイの企てというのはちょっとあいまいなので、いくつか補足がなされています。

まず、

アピールは、その消滅の基準となるプレイまたはプレイの企てとはみなさない。(5.09c)

と規定されていて、当たり前の規定のようですが、アピールすることが複数ある場合に、一つアピールすることでもう一つのアピール権が消滅するなんてことはないわけです。

しかし、

投手がアピールのために塁に送球し、スタンドの中などボールデッドの個所にボールを投げ込んだ場合には、同一走者に対して、同一塁についてのアピールを再びすることは許されない。

と規定されていて、アピールのための送球が悪送球となって、ボールデッド地域に入ってしまうと、アピール権が消滅することが規定されています。

もっとも、この規定を読むと、他の走者や他の塁でのアピールはできるかのように読めますが、別の個所でそれが明確に否定されています。

5.09c【注2】
投手または野手のアピールのための送球がボールデッドの個所に入った場合、それはアピールの企てとみなされ、アピール権は消滅する。したがって、その後、いずれの塁、いずれの走者に対するアピールは許されない。

つまり、アピールはプレイの企てにはならないのですが、それが悪送球になってボールデッド地域まで達してしまうと、プレイの企てとみなされ、すべてのアピール権が消滅します。

何が次のプレイか

次のプレイが行われるとアピール権は消滅するわけですが、塁の踏み忘れなんていうのは、一連のプレイの途中で起こるものなので、どこでプレイを区切るかというのは難問です。

ここに関しては、ベースボールマガジン社の野球審判員マニュアルが15個もの例題をあげて具体的に上げています。

詳細は避けますが、おおむね常識的な判断が通用する感じです。

例えば、1アウト2塁の状況。打者がヒットを打ち、1塁を踏み忘れるがそのまま2塁を狙う。一部の内野手は踏み忘れに気づいたが、外野手は2塁に送球しタッチアウトを狙うもセーフの判定。その間に2塁走者は3塁を回り本塁に突進。すぐに2塁手がホームに送球するが本塁もセーフ。

この状況で、本塁への送球が次のプレイに該当するということはなく、この後に打者の1塁空過のアピールが出来ます。一連の連続したプレイが終わり、いったん中断してからのプレイが、アピール権消滅のためのプレイとなるようです。

もっとも、2つほど注意が必要なプレイがあります。
(1)上記の例の続きで、プレイが始まり、1塁空過をアピールしようと投手が1塁に送球。しかし、これが悪送球(これがスタンドまで入ってしまえばアピール権消滅なのは既述の通り)。1塁手はボールを拾って1塁を踏みアピールすることはできるが、悪送球をみて2塁走者が3塁に走った場合、1塁手がアピールする前に3塁に送球してしまうと、アピール権は消滅。
(2)似た例で、投手がアピールのために、1塁に送球すると同時に、2塁走者が3塁へ盗塁を試みる。この場合も、1塁手がアピールする前に走者をアウトにしようと3塁へ送球してしまうと、アピール権は消滅します。

このアピール権の消滅に関しては、面白いプレーがメジャーリーグで起きています。

ヤンキースのジャッジ選手が1塁にいる時に、外野フライで飛び出してしまいます。しかし、2塁を回ったところで、外野手に打球が捕球されたのをみて慌てて1塁に戻ります。そして、一旦はアウトになるものの、チャレンジ成功してセーフになります。ここまでが下記の動画。

ここまでは普通なのですが、実は、ジャッジ選手飛び出したときに2塁に踏み越えているのですが、戻ってくるときに2塁を踏み忘れています。

つまり、チャレンジ成功で1塁はセーフになったわけですが、2塁でアピールされれば帰塁時の2塁空過でアウトになるのが必至です。

と思ったら下記のことが起きました。

プレイ再開となりピッチャーが2塁に送球しようとしたときに、ジャッジ選手は2塁への盗塁を試みました。

これは、ある意味ルールを熟知している者の頭脳プレイとも言え、この瞬間、2塁への送球は盗塁阻止のためのプレイとなってしまい、悪送球や盗塁セーフになれば、アピール権は消滅し、生き残れるわけです。

どうせアピールアウトになるのが確実であれば、トライする価値ありのプレイです。

なお、あくまでピッチャーはアピールするために2塁に送球したのであって、盗塁が試みられているとしても、何事もなかったかのようにアピールすればいいのじゃないかとも考えられますが、さすがに相手が盗塁を試みている状況だと、自分達はプレイしていないというのも苦しいような気がします。

アピールとボーク

ここは面倒な話があるので別項目にします。

まず、次の規定があります。

5.09c 原注
アピールするときに、投手がボークをした場合には、その消滅の基準となるプレイとみなされる。

したがって、一連のプレイがひと段落したが、その過程に塁の空過があったような場合、プレイ再開となって、投手がアピールするために該当する塁に投球するときわけですが、ここがボークになってしまうと、アピール権が消滅してしまいます。

ここで非常に厄介な問題が発生します。

まず、次の規定があります。
5.09c
アピールは、その消滅の基準となるプレイまたはプレイの企てとはみなさない。

アピールする前に、プレイまたはプレイの企てが行われるとアピール権が消滅してしまうわけですが、もしアピールそのものがプレイに該当するとしてしまうと、複数アピールがある場合に(複数走者が塁の空過をしているような場合)、1つアピールすると、2つ目のアピールが出来なくなってしまうので、わざわざ、アピールはプレイもしくはプレイの企てに該当しないよと規定しているわけです。

しかし、この規定が悪影響を及ぼす規定が別の個所にあります。

それが下記。

6.02aボーク(4)
投手板に触れている投手が、走者のいない塁へ送球したり、送球するまねをした場合。ただし、プレイの必要があればさしつかえない

これはボークの規定で、投手板に触れたまま走者の塁にいない塁に送球するのは、プレイの必要(盗塁の阻止など)が無い場合はボークになるよと言っています。

ここで、上述の5.09cの規定に基づく限り、アピールはプレイに該当しませんから、アピールのための送球は、「プレイの必要」の要件を満たさないことになります。

ということは、2塁打を打った走者が2塁にいるけど実は1塁を空過していたという場面で、投手が1塁の空過をアピールしようと走者のいない1塁に送球したときに、もし投手が投手板に触れたまま送球すればボークになってしまうことになります。

野球規約だけをみると、これが「規約の解釈」としては正しいということになるかと思いますが、果たしてこれでいいのか。

おそらく、それは厳しすぎるというか、ボークの趣旨に反するということなんでしょうが、ベースボールマガジン社の野球審判員マニュアル(第3版)には下記の記述が登場します。

(5) アピールはプレイまたはプレイの企てとはならない。したがって、ある塁にアピールして、引き続き他の塁にアピールすることは認められる。もちろん、投手は、アピールのためであれば、走者のいない塁に送球することができる。

(6) 投手板に触れている投手が、アピールするためであれば、走者のいない塁に送球してもボークではない。投手はアピールプレイのために投手板をはずす必要はない。(6.02(a)(4))

つまり、ちょっと文言上は矛盾しちゃうんだけども、ボーク規定の例外として、アピールのために走者のいない塁に送球する場合は、投手板に足をつけたまま送球してもボークじゃないということになります。

そして、おそらく、この解釈は、メジャーリーグの審判マニュアルにある下記の文言を参照にしていると思います。

It is NOT a balk for the pitcher, while in contact with the rubber, to throw to an unoccupied base for the purpose of making an appeal play. (Note that the pitcher does not have to step back off the rubber to make an appeal play.)

訳は(6)の文言とまったく同じです(ネットで拾った文言なので違ったらごめんなさい)。

もっとも、これはあくまでMLBの審判マニュアルの解釈を参考に、上述の野球審判員マニュアルを記した、アマチュア野球規則委員会/一般財団法人 全日本野球協会がそう解釈しているというだけで、公式なルールではありません。

アマチュアの野球では、事実上の公式ルールと言っても構わないのでしょうが、プロ野球等でどうなるかはわかりません。

下記のようなことがありました。

見てもらうとわかるように、まさにこの状況で、ボークが宣告されてしまいました。

これについては、Bassball Rules Academyというサイトが下記のようなレポートを出して、これは誤審であるとしています。

Hamels Incorrectly Called for Balk (2015)

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なお、別に投手板をいったん外して投げればいいだけで、熱くなるようなところではない気もしますが、もし送球が悪送球となってスタンドに入ってしまった場合、投手板を外していれば野手扱いになって2個進塁ですが、投手板を踏んでいれば投手として投げたことになりますので、1個進塁で済むという違いが生じます。

イニング終わり時の取り扱い

アピールは、次のプレイまたはプレイの企ての前までに行わなくてはいけないのですが、イニング終わりの場合は次のプレイが無いため、補足が用意されています。

5.09c
イニングの表または裏が終わったときのアピールは、守備側チームのプレーヤーが競技場を去るまでに行なわなければならない。
(中略)
〝守備側チームのプレーヤーが競技場を去る〟とあるのは、投手および内野手が、ベンチまたはクラブハウスに向かうために、フェア地域を離れたことを意味する。

ルールブックの盲点の1点の解説やこれに関する野球クイズなどでも、「守備側がベンチに帰ってしまった」というような表現がされたりしますが、ここについても正確に規定されていて、投手と内野手がフェア地域を離れたタイミングでアピール権が消滅します。

また、イニング終わりの中でも特別な試合終了時に関しては、さらに特例が設けられています。

【5.09c原注】【注3】

攻守交代の場合と試合終了の場合との区別なく、いずれの場合でも投手および内野手が、フェア地域を離れたときに、アピール権が消滅することとする。
アマチュア野球では、試合終了の場合に限って、両チームが本塁に整列したとき、アピール権は消滅することとする

したがってアマチュア野球の場合は、両チームが整列するまではアピールすることが出来ることになっています。

アピールアウトと得点の関係

アピールプレイと得点の関係は結構複雑です。まず、得点のルールの復習から始めます。

得点の原則

実際の試合で発生する確率はさておき、野球規約上は、得点に関してはタイムプレイが原則です。

5.08a
3人アウトになってそのイニングが終了する前に、走者が正規に一塁、二塁、三塁、本塁に進み、かつこれに触れた場合には、その都度、1点が記録される。

つまり、3アウトになる前に、走者がホームインすれば、どんな形であれ得点が認められるのが原則です。

もっとも、例外規定が用意されています。

5.08a【例外】
第3アウトが次のような場合には、そのアウトにいたるプレイ中に、走者(1、2にあたる場合は全走者、3にあたる場合は後位の走者)が本塁に進んでも、得点は記録されない。

(1) 打者走者が一塁に触れる前にアウトにされたとき。(5.09a、6.03a参照)
(2) 走者がフォースアウトされたとき。(5.09b6参照)
(3) 前位の走者が塁に触れ損ねてアウトにされたとき。(5.09c1・2、同d参照)

したがって、3アウト目が上記例外の3つに該当する場合は、3アウトになる前にホームインしていてもその得点は認められません(1、2にあたる場合は全走者、3にあたる場合は後位の走者)。

よく、ルールブックの盲点の1点の説明などで、「フォースアウトではなくアピールアウトだからダイムプレイになる」といった表現が見られますが、一般論として、「アピールアウトだからタイムプレイになる」とは限りません。

アピールアウトであっても、上記5.08a例外に該当すれば、フォースアウト同様、得点は認められません。

以下では、得点のルールにつき、アピールプレイとの関係に絞って解説します。

打者1塁到達前アウトの場合

まず、アピールアウトが、5.08a例外(1)打者走者が一塁に触れる前にアウトにされたときに該当する場合。

まず、アピールプレイは以下の4つです。
(1)リタッチ義務違反
(2)塁の踏み忘れ
(3)1塁のオーバーラン後すぐに1塁に行かない
(4)本塁の踏み忘れ

このうち、(4)本塁踏み忘れは関係ありませんし、また、(1)リタッチ義務違反も、1塁でアウトになるケースはありますが、打者が1塁走者になった後の話ですから、打者が1塁到達前のアウトには当たりません。

一番重要なのは(2)の塁の踏み忘れです。

打者が1塁を踏み忘れていてそれがアピールによりアウトになった場合は、打者1塁到達前のアウトに該当するので、得点はすべて認められないことになります。

例えば、2アウト満塁で打者がホームランを打ったが1塁を踏み忘れていた場合、アピールで打者がアウトになれば、5.09c例外に規定されている通り、全走者について得点は認められず、無得点となります。

なお、念のため補足しておくと、これが1アウト満塁で起こったら、打者がアウトになるだけで、他の走者の得点は認められ3点が記録されます。上記はあくまで3アウトと得点に関するルールです。

厄介なのは、(3)の1塁オーバーラン。

これは、1塁に到達した後の話なので、打者1塁到達前アウトではありません。

しかし、問題は、打者が1塁を空過しつつオーバーランしてしかもすぐ戻らないとき。

例を2つ挙げます。

(例1)
2アウト3塁の状況。打者が内野ゴロを打って1塁に走り込み、セーフのタイミングだったがうっかり2塁方向に飛び出して離塁してしまいタッチアウト(3アウト)。この時、1塁を空過していた。なお、その間に3塁走者はホームインしていた。

この場合、3アウト目はただのタッチアウトですから、何もしなければ3塁走者の得点は認められることになります。

しかし、打者は1塁を空過していますから、守備側としてはそれをアピールして、第3アウトの置き換えをすれば、第3アウトが打者1塁到達前のアウトとなり、得点を取り消せるような気もします。

と思いきや、野球審判員マニュアル第3版のP55の項目9「走者がフォースの状態で塁をオーバースライド」の個所を読むと、似たような例で、オーバースライドの場合は塁に達していたとみなされるからといった理由で、アピールは認められないとしています。

個人的には、第3アウトの置き換えが認められないとする理由がない気がしていて、この解釈は違うんじゃないかと思いますが、野球審判員マニュアルの記述を読む限りは、このケースできないという結論になる気がします。

オーバースライドの場合は塁に達していたとみなされるというのは、まあ良いとしても、その結果として、塁の空過のアピールまでできなくなるというのは、ルールの解釈を通り越して、アピール権消滅に関するルールの創設になっている気がします。

私の理解がおかしいのだろうか。

(例2)
2アウト3塁の状況。打者が内野ゴロを打って1塁に滑り込み、セーフのタイミングだが1塁を空過してしまう。しかし、その後すぐに1塁に戻らないために、アピールアウトとなった。なお、その間に3塁走者はホームインしていた。

この場合、3アウト目はオーバーラン後にすぐ戻らないというアピールアウトであり、1塁到達前打者アウトのケースではないから、得点は認められる。しかし、第3アウトの置き換えとして、1塁の空過をアピールすれば、それが第3アウトとなるために、打者1塁到達前のアウトとして、3塁走者の得点は認められない。

例1と例2で取り扱いを変える理由は何もない気がするのですが、例1でアピールが出来ない理由が今一つ不明瞭のためこうなると思います。

もちろん、オーバースライドの場合は塁に達していたとみなされるという点を強調して、この場合もアピールできないと結論付けることもできます。

しかし、そもそものオーバーランして直ちに1塁に戻らないというプレイ自体がアピールプレイですから、それを主張せずに、直ちに1塁の空過をアピールしていれば、打者1塁到達前のアウトとして、第3アウトの置き換えをせずして得点は認められないので、最初に1塁到達を前提としたアピールを主張したからといって、1塁空過のアピールが出来なくなるというのは、やっぱりおかしい気がします。

ここら辺、誰か詳しい人教えてください。

まあ、ほとんど現実には発生しない状況でしょうけどね。

フォースアウトの場合

これも結構ややしくて、第3アウトがフォースアウトの場合の規定が、アピールアウトと何の関係があるのか疑問に思う方もいるかもしれませんが、アピールアウトがフォースアウトになる場合があります。

これは、規定上明確にされています。

5.08原注
また、フォースの状態での塁の空過や打者走者の一塁空過がアピールによって第3アウトになった場合、すべての走者は正しい走塁を行っていても得点とはならない。

これは、アピールアウトがフォースアウトになると直接言っているわけではないですが、すべての走者に関して得点にならないとしている点をもって、フォースアウトと扱うと宣言していると捉えて差し支えないと思います。

要するに、フォースの状態での塁の空過は、アピールによって初めてアウトになるのだけど、フォースアウト扱いになるということです。

(例)2アウト1塁2塁の状況で、打者がホームラン。しかし、1塁走者が2塁を空過していて、これがアピールされアピールアウト。

この場合、1塁走者の2塁空過というのはフォースの状態での塁の空過ですからフォースアウト扱いになり、5.08a例外が適用され、2塁走者の得点も含め、すべての走者の得点は認められず、無得点です。

なお、もし1アウトの状況であれば、1塁走者がアウトになるだけで、2塁走者と打者の得点は認められ、2点入ります。

前走者が塁の空過の場合

塁の空過でアピールアウトになる場合の特別の規定が得点ルールの例外の3パターン目です。

5.08a例外を少し注意深く読む必要がありますが、「前位の走者が塁に触れ損ねてアウトにされたとき」は「後位の走者)が本塁に進んでも、得点は記録されない」と明確に規定されています。

つまり、3アウト目が塁の空過だった場合は、その走者はアウトであり、正規の走塁を行っていませんからその走者が本塁を踏んでも得点は記録されませんが、さらに、その後ろにいた走者(打者も含む)の得点も記録されないという規定です。

具体例を見た方が早いかもしれません。

(例)2アウト満塁の状況で、打者がホームラン。しかし、1塁走者が3塁を空過していて、これがアピールされアピールアウト。

この場合、1塁走者の得点が認められないだけでなく、後位の走者(この場合は打者だけ)の得点も認められませんから、結局、2塁走者と3塁走者の分だけ認められ、2得点となります。

なお、1塁走者が3塁を空過している点には注意が必要です。もし、1塁走者が2塁を空過していたり、2塁走者が3塁を空過していたりすれば、それはフォースアウト扱いですから、すべての得点が認められず、無得点です。

また、このルールは3アウト目に関するルールですから、もし1アウト満塁の状況であれば、誰がどの塁を空過していようと、アウトの走者以外の得点は認められます。

第3アウトの置き換え

「アピールアウトと言えば第3アウトの置き換え」と言われるくらい有名な規定です。

5.09c
第3アウトが成立した後、ほかにアピールがあり、審判員が、そのアピールを支持した場合には、そのアピールアウトが、そのイニングにおける第3アウトとなる。
また、第3アウトがアピールによって成立した後でも、守備側チームは、このアウトよりもほかに有利なアピールプレイがあれば、その有利となるアピールアウトを選んで、先の第3アウトと置きかえることができる。

一見、前段と「また」以降はじまる後段で、同じことを言っているような気がしますが、そうではありません。

まず、3アウトが成立していても、ほかにアピールアウトが出来るのであれば、それを第3アウトにすることが出来るというのが前段です。で、後段があることで何が変わるかというと、アピールできることが複数あれば、一番有利なものを第3アウトにすることが出来るというものです。

アピールアウトに関しては、アピールがあって初めてアウトになるという点、とくに塁の空過などで、審判は見ているにもかかわらずアピールが無い限り何事もなかったかのように流すという点で、「攻撃側に有利すぎる」とルール自体に疑問が呈されることも多く、審判が見つけた時点でアウトにすればよいという意見もあるのですが、その疑問に対する答えの一つがこの第3アウトの置き換えで、これによって、守備側にもメリットが与えられています。

最終的には、状況次第で、攻撃側に有利なように感じてしまう場面も、守備側に有利なように感じてしまう場面も両方あるわけですが、第3アウトの置き換えのルールがあるため、アピールアウトに関しては、一方的に攻撃側に有利で守備側に不利というわけでもないと思います。

第3アウトの置き換えに関しては具体例を見ていくのが一番わかりやすいと思います。

(例1)1アウト1塁2塁の状況。打者は外野に大きなフライを打ち、二人の走者はヒットになると思い飛び出す。しかし、外野手のファインプレーによりフライアウト(2アウト)。しかし、2塁走者はそのままホームイン。1塁走者はフライがキャッチされたのを見て慌てて1塁に戻るが、好返球もあり1塁でタッチアウト(3アウト)。この状況で得点は入るか。

この場合、何もしないままだと得点は認められますが、ホームインした2塁走者がリタッチしていないこと(タッチアップが早かったでも同じ)をアピールするとともに、このアピールアウトを第3アウトとする「第3アウトの置き換え」をすれば、ホームインした2塁走者は正規の走塁をしていないことになり、得点は認められません。

(例2)2アウト1塁2塁の状況。打者が2塁打を打ち、2塁走者はホームイン。1塁走者も本塁を狙うがタッチアウト(3アウト)。しかし、打者は2塁に到達する過程で、1塁を空過していた。

この場合、何もしないと2塁走者の得点は認められる。しかし、打者の1塁空過をアピールして第3アウトに置き換えれば、第3アウトが、5.08a例外の打者1塁到達前アウトに該当することになるので、全走者の得点は認められないこととなり、2塁走者の得点も認められず、無得点となる。

(例3)2アウト2塁の状況。打者が3塁打を打ち、2塁走者はホームイン。しかし、打者は3塁に行く過程で、1塁も2塁も空過していた。そこで、3塁手が2塁に送球し、2塁手が2塁を踏んで、打者の2塁空過をアピールして3アウト。

この場合、このままだと、2塁走者の得点は認められるが、2塁空過のアピールアウトにつづいて、1塁に送球して1塁空過をアピールし、それを第3アウトに置き換えれば、第3アウトが打者1塁到達前アウトに該当するため、全走者の得点は認められないこととなり、2塁走者の得点も取り消され、無得点となる。